をふの日記

毎日頭の中をお掃除するために書く日記

円周率の覚え方

 

  ポストに手紙が届いていた。

 

  差出人は、仕事でお世話になっている85歳のおじいさま。筆まめでよくお便りをくださるうえ、長年日記もつけておられる。先日自宅の整理をしていたら、30年ほど前の手帳を発見し、そこに円周率の覚え方のゴロが記してあったという。

  なんでも、飲み屋さんに置いてあった本に書いてあり、お酒を飲み飲み書き写されたそうだ。30年の時を経て日の目を見たゴロとは。

 

「産医師異国に向かう

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産後厄無く産児御屋代に

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虫闇夜に鳴く頃にゃ」

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  「これを1日5回唱えていたら、3日で覚えられます」と書かれていたので、今日から3日で完璧に覚えようと思う。

 

  その前に御屋代(みやしろ)が一体何なのかわからないので調べてみた。

社の意であり、

1、神を祭る建物。神社。
2、 神の降臨する場所。土地を清めて祭壇を設け、神を祭った場所。
とのこと。

 

  そもそもこのゴロの意味もよくわからない。ゴロは得てして無理矢理になりがちだけれども、この文章もかなり力技で攻めている。産医師の周りで何が起きているのか掴みきれない。

 

  夜中に異国の神社で、産医師が赤子を捧げて祈祷でも行っているのだろうか。おもむろに火の粉の舞う松明のイメージが脳裏に浮かんできた。産医師は白装束を身につけている。少し怖い。

 

  私の頭の中の蛇口をひねり、ホースで松明めがけて水を放った。火が消えてホッとする。ずぶ濡れになってガタガタ震えている産医師の白装束を脱がせ、ユニクロで買ったチノパンとフリースを着せる。産医師は両手に手錠を嵌められ、うなだれながらパトカーに乗せられていった。

  赤子はふかふかのガーゼケットにくるみ、私の胸に抱いた。何が起きているかも知らず、スヤスヤと安心しきって寝ている。温かくて可愛い。この子は私が育てよう。

 

  円周率を覚えるはずが、はずみで養子を取ることになった。名前は円(まどか)  にしよう。

 

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