旧正月
今年は例年より1日早く、2月2日が節分だった。ふつうは節分の翌日が立春だけれど、暦に詳しい方によると、今年も本当の立春は2月4日とのこと。では、間にある3日は?ということになる。
今年の3日はというと、旧年とも新年とも、どちらともいえない「あわい」の日だそうだ。少し見通しのよくない霧の中にいるような日だから、あまり出かけたり新しいことをしたりせず、できれば自宅で大人しく過ごすと良いと教えていただいた。
本当は珍しく仕事に余裕があったので、映画でも観るか美術館に出かけたかったのだけど、自宅で犬を膝に抱えながら大人しく本を読んで過ごした。犬は温かくて可愛く、欠伸をすると少しだけ鉄のような生臭いような香りがする。人間の欠伸はこんな香りではないから、人間の口と犬の口はそんなに違うものかと不思議に思う。
2日の晩に豆まきをしたら、投げたそばから豆をすべて食べ尽くしてくれ、おかげさまで箒の出番がなくて済んだ。
犬が物を食べているところを見ていると、鼻の真下に口がついているって、どう頑張っても匂いから逃げ場のない構造だなと思う。 人間で言ったら上唇が鼻みたいなものだ。食べる、と嗅ぐ、が同時すぎてきっと強烈な体感なんだろう。食べ物にぴったり鼻をつけて匂いを直に嗅ぎつつ同時に味わうなんて、刺激で脳みそがクラクラしそう。
人間って味覚より嗅覚の方が強いと思うのだけど、犬は逆なのかしら。とにかくシュークリームなぞ食べ損じたら、鼻の穴も塞がっちゃうし大変だ。
近所の寿司居酒屋の前に置いてある、数種類の魚が同居している水槽を眺めるのが好きなのだけれど、何が好きかって、魚の口をまじまじと見ることが好きだ。
カワハギの小さい口に、ほんの少しだけ爪楊枝の先端か削った鉛筆の先を入れて上下に動かしてみたり、猫ザメの口を歯間ブラシでシャカシャカしてみたり、ハコフグ(さかなクンが被っているあの子)にいたっては、指を唇に押し当てるか、できればキスしてみたい。唇も舌も見た目にはすごくフカフカしていて頼りなく、感触が知りたいのだ。
この間、友人とこの水槽の前を通って、何の気なしに「このハコフグとキスしてみたいんだ」と言ったらぎこちない空気が流れ、さらにぎこちない空気をなかったことにするような空気も流れたので初めて気づいたのだが、この気持ちはハコフグに対するセクハラかもしれない。ハコフグも水から引き上げられて人間にキスされるなんてイヤだよね。
でも『シェイプ・オブ・ウォーター』的な異種間の心の交流も全くないとも言い切れない。 ハコフグはどんな人が好きなんだろう?「キスとかしてこない人」。そうでしょうとも。
そういえば、大人しく過ごすべし、と言われていたのに、昨晩は習い事に行ってきたな。どうしても行きたかったから行ったのだけど、行ってよかった。不思議なあわいの日に大好きな人たちに会えてよかった。そして何事もなくてよかった。
ようやく今日から新しい年。おめでとう。
素敵なことが沢山起こる年。すでに色んなことを予感しているというより知っているので、ドキドキしている。